輝かしいばかりが未来ではない:

アズリアは時折まるで貴婦人のような仕草をする。これは彼女の学生時代から変わっていない部分で、ふがいない自分は彼女からそんな昔の面影を見出しては一人ひっそりと喜んでいるのだった。今も彼女は軍服を身に纏ったまま椅子に腰掛け足をくみ、ワインが入ったグラスを少し揺らしながらカイルの話に耳を傾けている。その様は、なんだかとても上等に感じた。首を傾げているため頬にかかっている髪を気にすることもなく、うっすら微笑んでいるその表情は、なにか品定でもしている様でぞくぞくする。
アズリアと酒を飲むのは、島で再会してからが始めてだ―――――まぁそれは自分と彼女が同じ時を過したのが学生時代だから当たり前のことなのだが、その事実が過ぎた時の重さを感じさせた。自分の目の前で繰り広げられている会話を眺めながら、その空白の時間に、アズリアは俺の知らないところで俺の知らない男と寝たりしたのだろうかなんて、くだらないことをぼんやりと考えていた。

「せんせ酔っちゃったの?さっきから全然喋んないじゃない」
「あー…そうかも」
「珍しいなぁ、先生が酔うなんざ」
「つまんないこと考えてた。ワイン貰える?」
「あら、せっかく隊長さんが来てるのに考えて事だなんて、一体何考えてたのよ」

相変わらず食えない顔をしたスカーレルにワインを注いでもらいながら内緒と返事をすると、横ではアズリアが爪綺麗だな、なんて口にしていた。

「あらそぉ?嬉しいわ、あたしがしぃっかり、キチンと、お手入れしててもそれを見てくれないつまんない男しかここにはいないのよ。やっぱり女は褒められて綺麗になるんだものぉ、隊長さんからこの筋肉バカによく言ってやってよ」
「何をだ」
「てかそれだと俺らより隊長さんの方が男前ってことになるだろ」
「心意気としてはそのとおりよ」
「それは喜ぶべきなんだろうか…」

長い睫毛を少し伏せて、彼女は水鳥のように喉を震わせてグラスのワインを飲み干した。グラスから唇が離れるのが惜しいと思う。16、7の頃学内パーティーで見た、濃紺のドレスで身を包み背中を大きく露出させていた今より少し幼いアズリアを、脳の片隅で思い出した。その時彼女が手にしていたのはソーダ水で、俺はなかなかその背中を直視することは出来なかったのだけれど、彼女が「お嬢様」であるという事実を改めて認識した瞬間だった。そして今の俺が思うのは、あの背中は今でもあんなに真っ白なのかということ。だから彼女がそろそろ帰ると言った時に、送ると名乗り出たのだ。

「酔ったやつに送られてもなぁ…あとのことが心配なだけなんだが」
「でもここからラトリクスまでは遠いし、危ないから送るよ」
「なら先生俺が行くから、もう寝てろよ」
「いやそこまでしてもらわなくても」
「駄目、俺が行く」

実際、俺は酔ってなどいないのだ。ランプの光を受けてスカーレルの爪が、アズリアの瞳がゆらゆら光る。背もたれに身体を預けこちらを伺う彼女は困ったような、可笑しいような表情をしていてとても可愛い。戦場になんか立たなければ良いと思うのだが、そういえば俺は戦場での凛々しい彼女も好きなんだった。

「…お前本当に大丈夫か?目が座ってるぞ」

これは目が座ってるとかそういうんじゃなく欲情しているんだなんて口にするわけにもいかず、マフラーを巻いて、行くよ、とアズリアに一言投げた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんかいろいろとひどい