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バンドワゴン: 砂漠の中でも彼女は育った。脳では砂が擦れあう音を聞いていたが身体は眠りに落ちていった。 彼が彼の身体を仏界に返した日、彼女はずっと付けていたヘアピンを外したのだった。それは赤くてつやつやしていて、金具は大分ボロがきて付け外しの時には不穏な音をたてたけど、彼女にとって肉親との唯一の絆だった。ヘアピンを外してそっと両手で包み込み、裾を風に遊ばせているワンピースのポケットにそれをそっとしまって彼女は微笑んだ。 「もう、一人立ちしないとね。これからは私が強くあらなくちゃ。そうでないと、センジュ君と一緒に戦えない、一緒にいられないものね」 細く涙の跡を作りながらそう言う彼女の、長い前髪を風に揺らす姿はいつの間にか少女ではなくなっていて、ついさっきまで、今までもこれからも何の変わりもないと言い続けてきた彼にも涙を誘った。 彼の瞳は今も昔も大きくて、声は落ち着いたソプラノだ。そして、彼が笑うと、幸せな少年だった。 彼女の瞳は始めから優しく知恵を持っていたけれど、声はもう無邪気な少女ではなくなってしまった。彼女が目尻を細めて笑う仕草は、一人の女性だった。 二人は向かい合って泣いていたけれど、お互いに抱きしめ合うことはもう叶わなくなってしまった。だから切なくて寂しくて涙を流すのだが、こんな時どうすれば良いのかわからなくって、広い砂漠のどこか、岩場の横に立って二人して途方に暮れた。そんなこと、ついさっきまで知っていたのに。ぽっかり内臓が抜けてしまったみたいで、お腹はスースーしていた。それでいて、彼女の足はしっかりと地面を踏みしめていた。 何故なら、本当に本心から、彼女は知っているのだ。今日のこのことは大きな一歩だと。 彼女はずっと、いつかやってくるこの日への言いようのないムカムカする恐怖を抱えて生きていた。そしてとうとうその一線を越えてしまった今、彼女は身軽になったも当然だった。 彼女は砂漠の砂が彼女の涙を吸い込む様子を見ながら、生まれ故郷の川土手を思い出していた。そうしたら不意に、彼が 「明日にはそこに花が咲くんじゃないかな、さっちゃん」 なんて言うものだから、彼女は背負うものを全て忘れてただ昔を懐かしんで泣いた。 彼女が着ているワンピースは、少女の頃着ていたものとは違う。彼女を励ますかのように、ふくらはぎをワンピースがくすぐった。 テントの中で体を丸めて眠る彼女の格好は、胎児のそれと同じだ。被っている毛布は毛がくたびれてしまい手触りは全く良くないのに、彼女は何かにすがる様にそれにくるまり頬を押しあてている。 この地の夜は、彼女の故郷よりも鮮やかに思えた。夜空は深い紺色で、砂漠の表面は月光を強く反射する。 月光はテントの中にも入り込んでくるので、彼はその明かりを頼りに彼女の手を探しあて、何の気無しに彼女の指を握ろうとしたが、それは叶わなかった。そのことは勿論寂しかったけれど、彼は愕然とはしなかった。ただ、これから先生きていくのは全て「彼女次第」になってしまった事実を漸くきちんと理解した気がした。 月光が写し出す砂漠は何処までも乾いている。 全てを救うためにある彼の両腕は彼女を抱き締めることが出来なくなってしまったが、これは絶望ではない。ただの、純粋な寂しさだ。 目を閉じた彼に思い浮かんだ光景は、紺色の空から黄金の星が降ってくる様子で、それは頭上で砕けて金砂になり、彼女の上にも自分の上にも降り積もった。 そして、二人は笑った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 手を出してはいけない領域に手を出してしまった気がしなくもない…仏ゾーンメンバーの空白のエピソードを思うと本当に泣けてくる。これは、サティさんの大日如来がオーバーソウルである限りセンジュ君は持ち霊という立場になるんだろうなと思った話 |