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瞬いたら春: 待って、と、言ったにも関わらず彼女は振り向いて微笑んだだけでそのまま消えた。ほんの少し目を放した隙に、彼女は僕が彼女に風を当てまいとずっと固く守っていた襖を開けて、廊下に出てしまっていた。彼女の痩せた白い足は、深い色の重たそうな木の床の上に立つと、より頼りなく見えた。しまったと思うのと同時に風が吹いた。桜に蝕まれてしまった彼女は春風に吹かれ、髪の先から、指先から、順々にはっきりとした輪郭を失い花びらとなって元居た部屋に舞い入ってきた。元は彼女の爪であった花びらが僕の膝に乗っかって、漸く僕は言葉を口にすることが出来た。待って、言ってももう既に遅し。彼女はほぐれつつも微笑んだ。頼むから、――――――――言った後にはもう彼女の姿はそこにはなかった。僕は、ただ呆然として部屋の中に視線を移した。 さっきまで彼女が寝ていた布団の上には数枚の桜の花弁が落ちているだけで、もうそれ以上動かなかった。 |