夜の子どもたち:

世界の丸さを知っている。たとえどんな袋小路に追い詰められても、沢山の大人達に追いかけられても、世界はどっかからどこかに必ず繋がっているから、手段さえあればここではないどこかしらには行けるのだということを、俺は生まれた時から知っていた。随分あやふやな言い方だけど、その手段を持つ俺にはそれだけで十分だった。
―――喋らなくなってしまったセイラームは無理やり裏路地のゴミ箱につっこんでも泣かなかった。大人達の声が、街の喧騒が遠くなる。どうせ俺達はただの「かわいそう」な兄妹だから、このままいなくなってしまっても「かわいそうだった」だけで終れる存在なんだ。あのまま沢山の「かわいそう」な子供たちに埋もれて、本当のことを知らずに大人になってしまうのだけは嫌だった。まだ子供だから?そんなこと――――。
どこにだって行けるということを知っている俺は、夜の街なんて全然、怖くなんてない。いつのことだったか、研究室に閉じ籠ってばかりの父ちゃんが一緒にスーパーマーケットに連れて行ってくれて嬉しかった、そんな暖かった街は、父ちゃんを殺した犯人への恨みをただ深く思い出させるだけの冷たい箱に変わってしまったけど、俺はその暖かさすら恐れない。忘れてしまったら、俺は何をして生きれば良い?

最後に俺達を呼ぶ声を聞いて暫く経って、辺りに誰もいなくなったあと、俺はセイラームをゴミ箱から引きずり出して、少しだけ泣いた。―――恨みの裏にある得体の知れない恐怖が、俺の首ねっこを掴んでいるような気がした。